mita
先日友人の川口等くんと交わしたメールのやりとりでちょっとしたお話を。
その前に少しばかり、僕の生まれた町のことを説明しておきます。
僕が生まれ育ったのは、広島の尾道という小さな市です。 中心部は山と海の間に東西に延びた、猫の額のように細長い町です。 そのど真ん中を駅から東に向かってアーケードが続いていますが、その切れ目の角を 海側に折れた少し下り坂の小さな短い通りを「水尾町」といいます。 尾道の海に向かう通りで「水尾町」…なかなか良い名前でしょ。 ここはお茶屋さんや、造り酢やさん、畳屋さんなどがある静かな通りです。 その通りの端に僕の生家があります。
その僕の生家がある四つ角を上に見上げると、「千日前」(勿論、大阪を真似てるん です)と書かれた小さなアーチが掛かっています。 ここを左に曲がるとすぐに、いわゆる色街が続くわけです。 僕が小さいころには、ほんの50米ほどの所に映画館、パチンコ屋、そして色街に集まる 人のための自転車預かり屋さんが沢山密集していました。 映画館は東映、日活、東宝、大映が集まり(何故か松竹だけが他の場所にありました) 、当時は連日立ち見客で賑わっていました。 そしてその一郭を過ぎると、今度は星の数ほどの小さな飲み屋が並んでいます。 現在は自転車預かり屋は勿論のこと、映画館もパチンコ屋も全て無くなってしまいました。 その代わり飲み屋だけは相変わらず無数にあり、その多くはカラオケ・バーになっていま す。
こんなアーケードの掛かる商店街と色街とを繋ぐ静かな通り水尾町で、近ごろ『水祭 り』という極々小さなお祭りがありました。これにたまたま僕の友人が行きそのとき のことをレポートしてくれました。
以下は友人のメールとそれに返事した僕のメールです。
土曜日は水尾町の水祭りだというので、
仕事を終えバイクに乗って写真を撮りに行ってきた。
新聞によると今年は水祭り復活15周年とかで、
特に力を入れたという話。
去年始めていった行ったときには、
水尾町の通りに人形が飾ってあるのを知らなくて
熊野神社の方しか行かなかったのだが、
今回は、通りの飾りをしっかりと見てきた。
写真を見てのとおりずいぶんと手の込んだ造り、
いずれの人形もからくり人形となっていて、動きがあり
水祭りの名前の通り、写真では分かり難いが
人形の何処かから水が一筋もしくは二筋
飛び出す仕掛けになっている。
この日は天神さんの祭りもやっていて、
水祭りを見た後、御袖天満宮にも廻ってみたのだが、
祭りはやってても神輿は見えなかった。
ひょっとすると前の日に済んだのかも知れない?
それとも今日の日曜日が神輿の日だったのだろうか?
土曜日の午前中に激しい雨が降って、その後急速に回復したので、
あれが梅雨の最後の雨で、もう梅雨も上がるかと思ったのだが、
今日も午後から雲が出てきて、どうもそうではないらしい。
取りあえず水祭りの報告でした。
水祭りというのは、実は、うちのお爺さんがやっていたものなんだ。
人形やそこから水が出てくる仕掛けやらすべてうちのお爺さんが作っていた。
一説によるとその親父(つまり僕の曽祖父)もやっていたという話もある。
勿論僕は一度も見たことはなく、水祭りという言葉を聞いたのは、確か
高校の終わり頃が初めてだった。
大阪万博を記念してその前年から「万国びっくりショー」(八木治郎アナウンサー司
会)というテレビ番組があったが、そのときその番組からうちのお爺さんに、水
祭りを番組で再現して欲しいという依頼があった。
お爺さんは「もう当時の人形は残っていないし、苦労して再現しても、
今時、人形からただ水が出るだけでは面白くも何ともない。」と断ったそうだ。
そのときに初めて水祭りのことを親父から教えてもらった。
それから随分時が経って…等さんの話によると今年が15周年ということだから16
年前ということになるのだろうか…親父から「水祭り用の人形の顔を探したいの
で上京していろんな人形屋を見て周りたい。」といってきた。
何やら久々に水祭りを復活させたいということになって、そのときに実際に作っていた
僕のお爺さんの子供ということで、親父に白羽の矢がたったという事だった。
実際親父は子供の頃手伝っていたらしく、この細工を知る人は他にはいなかったらしい。
親父は当時の事を思い浮かべながら関係者にアドバイスをし、特に人形
の「顔」にこだわり自ら東京の人形屋さんを訪ね歩いたというわけだ。
いろいろ苦労の末完成し第一回目を無事開催したという話は聞いたが、その後は
そのイベントを仕切る若い人たちと、どこまでも職人肌の親父とはなかなか
意見が合わず、ついに親父はフェイド・アウトとあいなったらしい。
君から水祭りの話を聞くというのは不思議な気分で、当の三田家の僕は見たこともない。
せめて尾道の友人にこのことを伝聞して欲しいと思う。
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